ロバート・E・パーク『人の移住とマージナルマン』翻訳5

ロバート・E・パーク『人の移住とマージナルマン(HUMAN MIGRATION AND THE MARGINAL MAN)』の翻訳です。

()は翻訳者の注です。

スポンサーリンク

ロバート・E・パーク『人の移住とマージナルマン』翻訳5

しかし、長い目で見れば、同じ経済を共有しながら共に暮らす民族や人種は必然的に混血し、他の方法ではなくても、単に協力的かつ経済的な関係が社会的、文化的なものになるのものだ。

移住が経済的または政治的な征服につながる場合、同化は避けられない。

征服者は自らの文化と規範を征服された人々に押し付け、その後文化の浸透の期間が続く。

征服者と被征服者の間の関係は、時には奴隷制の形をとることもある。時にはインドのようにカースト制度の形をとることもある。

しかし、どちらの場合でも、支配民族と被支配民族は、やがて一つの社会の不可欠な一部となる。

奴隷制度とカースト制度は、人種問題が一時的に解決される単なる妥協の形態に過ぎない。

ユダヤ人の場合は違った。少なくともヨーロッパでは、ユダヤ人は決して被支配民族ではなかった。

彼らは決して下位カーストの地位に落とされることはなかった。彼らは、最初は自ら選び、その後強制的に居住させられたゲットーで、自らの部族の伝統と、政治的ではないにしても文化的独立を維持した。

ゲットーを去ったユダヤ人は逃げなかった。彼は脱走し、忌まわしい存在、背教者となった。

ゲットーのユダヤ人と、彼らが住んでいたより大きなコミュニティとの関係は、ある程度は社会的なものというよりは共生的なものであったし、今でもそうである。

しかし、中世のゲットーの壁が取り壊され、ユダヤ人が自分たちが暮らしていた民族の文化生活に参加することが許されると、新しいタイプが現れた。すなわち、2つの異なる民族の文化生活と伝統を親密に共有しながら暮らす文化的ハイブリッドの人間だ。

たとえ許されたとしても、彼は自分の過去や伝統を破ることを決して望んでいなかったし、人種的偏見のために、今自分が居場所を見つけようとしている新しい社会に完全に受け入れられることもなかった。

彼は、決して完全に浸透し融合することはなかった二つの文化と二つの社会の境界にいた人物だった。

解放されたユダヤ人は、歴史的にも典型的なマージナルマンであり、世界初のコスモポリタンであり市民であったし、今もそうである。

彼は、まさに「よそ者」であり、自身もユダヤ人であるジンメルが著書『社会学』の中で深い洞察力と理解力をもって描写した人物である。

ユダヤ人の特徴である、商人としての卓越性、鋭い知的関心、洗練さ、理想主義、歴史感覚の欠如は、都市生活者、つまり広範囲に渡り歩き、ホテル住まいを好む、コスモポリタンの特徴でもある。

近年アメリカでは多数のユダヤ人移民の自伝が出版されているが、それらはすべて同じ物語、すなわちマージナルマンの物語の異なるバージョンである。

ヨーロッパのゲットーから抜け出し、アメリカの都市のより自由で複雑かつ国際的な生活の中で自分の居場所を見つけようとしている人間。

これらの自伝から、移民個人の中で同化のプロセスが実際にどのように起こるかを学ぶことができるかもしれない。

繊細な心の持主にとって、その影響はまた異なる。それは、ウィリアム・ジェームズ(アメリカの哲学者、心理学者)が著書『宗教的経験の諸相』で描いた、宗教的改宗と同じくらい深刻で不安なものである。

これらの移民の自伝では、移民の心の中で起こる文化の衝突は、まさに「分裂した自己」、つまり古い自己と新しい自己の衝突である。

そして、この葛藤は満足のいく結末を得られないことがよくある。ルードヴィヒ・レヴィゾーン(ドイツ系ユダヤ人の小説家、文芸評論家)の自伝『アップ・ストリーム(Up Stream)』に描かれているように、深い幻滅で終わることが多い。

しかし、レヴィゾーンが捨て去ったゲットーの温かく安全な環境と、まだ完全に馴染んでいない外の世界の冷たい自由との間で、落ち着きなく揺れ動く様子は、典型的な移民の特徴である。

1世紀前、ハインリヒ・ハイネは、同じように相反する忠誠心に引き裂かれ、ドイツ人でありながらユダヤ人でいることに苦悩し、レヴィゾーンと同様の経験をしている。

ハイネの最近の伝記作家によれば、ハイネの人生の秘密と悲劇は、彼がどちらの世界に所属することも止めたにも関わらず、2つの世界に生きることを余儀なくされたことによって生じたという。

これが彼の知的生活を苦しめ、彼の著作に、ブラウンが言うところの「精神的苦悩」の証拠である精神的葛藤と不安定さという特徴を与えたのである。

彼の心には、強い信念に基づく一貫性(integrity)が欠けていた。「彼の腕は弱々しかった」―引用を続ける―「なぜなら、彼の心は分裂していたからだ。彼の手は震えていた。なぜなら、彼の魂は混乱していたからだ。」

古い習慣が捨てられ、新しい習慣がまだ形成されていない移行期には、おそらく同じような2つの道徳を抱えた葛藤の感覚がすべての移民の特徴となるだろう。

それは必然的に、内面の混乱と激しい自己意識の時期である。

私たちの多くにおいても、移民が故郷を離れ見知らぬ国で新たな人生を探すときに経験する移行期や危機期と同じような時期があることは間違いない。

しかし、マージナルマンの場合、危機の期間は半永久的に続くことが多い。その結果、マージナルマンは、ある性格のタイプを持つ傾向がある。

通常、マージナルマンは、米国のムラート(白人と黒人の混血)やアジアのユーラシア人(白人とアジア人の混血)のような混血である。しかし、混血の人間は明らかに2つの世界に生きている。彼らは、どちらの世界でも多かれ少なかれよそ者だからである。

アジアやアフリカのキリスト教改宗者は、マージナルマンと同じような精神的不安定、強い自意識、落ち着きのなさ、不安感といった特徴を示す。

新たな文化的接触が引き起こす道徳的混乱は、最も明白な形で、マージナルマンの心の中に現れる。

文明と発展のプロセスを最もよく研究できるのは、文化の変化と融合が起こっているマージナルマンの心の中なのである。

ロバート・E・パーク『人の移住とマージナルマン』翻訳目次

コメント

タイトルとURLをコピーしました