アンソニーギデンズ『親密性の変容』の要約です。
第一章日々の実験、関係性、セクシュアリティ
作家ジュリアン・バーンズの小説『彼女が僕と知り合う前に(Before She Met Me)』
再婚した男性が、相手の女性(アン)の元交際相手の男性に嫉妬し、元交際相手を殺害して自分も死ぬというストーリー。
大きな転換が生じている社会での、男性の不安感や暴力をテーマにした小説
*ジュリアン・バーンズは1946年生まれのイギリスの小説家。ポストモダン的と評される作風で、現代イギリスの代表的作家の一人として活躍。『彼女が僕と知り合う前に(Before She Met Me)』は未翻訳。
『彼女が僕と知り合う前に』特徴
①再婚相手の女性(アン)が数多くの性関係を持っている点で、男女平等で現代的
➔これまで、女性は「貞淑な女」か「尻軽な女」に分けられ、一般的に女性は貞淑な女(数多くの性関係を持たない)であることが求められた。
➔一方、男性は数多くの性関係を持つことが許されていた(男女で違う道徳規範)
②アンとの結婚生活は、つねに話し合い「乗り越えて」いかなければならない、複雑にからみ合った一連の相互行為(性的交渉や関係性が重要視される)である。
➔主人公の男性の最初の結婚は、旧来の役割分担に基づいた「なるべくしてなった」ものだった(話し合いは必要ない)。
社会変動と性行動
リリアン・ルービンの調査(1989年、米国で18歳から48歳までの異性愛者約1000人の性生活)
➔過去数十年の間に「男女の関係に信じたいほどの変化が生じている」
前の世代の男女関係
- 女性は結婚するまで処女でいることが重んじられる
- 女性の社会的評判は、性の誘惑に負けない、性的誘いを抑制できる能力によって得られる
- 男性の社会的評判は、どのくらい女の子たちを性的に征服できるかによって得られる
新しい世代の男女関係
- 女性は妥当と思えば、たとえ何歳であっても性的活動を行う権利があると思っている
- 結婚まで「貞操を守る」と答えた女性は一人もいない
- 男性の意識はそれほど変わっておらず、男性よりも女性のほうが変化が大きい
「世間知らず」の翻訳の問題
前の世代では、旧来のしきたりは、性に積極的な10代の女の子たちに世間知らずという役を課してきた。しかし、この関係は、今日では総じて逆転している。世間知らずは、必要な場合、世慣れた人という役柄を演じているのである。
p23-24
原文では以下になります。
In previous generations, the conventional practice was for the sexually active teenage girl to play the part of innocent. This relation is today usually reversed: innocence, where necessary, plays the role of sophisticate.
「innocent」を「世間知らず」と訳しているのが混乱する原因なのかなと思います。
innocentには処女の意味があります。
When a girl states that she is “innocent”, it usually implies that she is virginal or has not engaged in sexual activity.
訳し直してみるとこんな感じです。
前の世代では、性に積極的な女の子は処女(innocent)のふりをするというのが一般的だった。この関係は今日では逆転している。処女の女の子が、必要な場合には経験者のふりをするのだ。
つまり、前の世代では経験者の女の子は処女のふりをしていた。なぜなら、処女であることに価値があったから。しかし、新しい世代では、処女の女の子は経験者のふりをするようになっている。なぜなら、処女であることの価値が下がっている(結婚するまで処女でいることが重んじられなくなっている)からだ、という意味だと思われます。
コメント